麹の種類で味が決まる
はじめて味噌を仕込むなら、まず麹を米麹にするか麦麹にするか豆麹にするかを決めます。ここで選んだ麹が、できあがる味噌の甘さと香りのほとんどを決めてしまいます。逆に言えば、この一点さえ決めれば残りの作業はどれも似たようなものです。
米麹は大豆と米麹と塩を合わせてつくる、いちばん親しみのある味噌です。甘みが出やすく、クセが少ないので初心者向けとされています。麦麹は九州や四国でよく使われ、香ばしさと軽い甘みが特徴です。豆麹は大豆だけでつくる濃厚なタイプで、赤味噌や八丁味噌に近い風味になります。麹の種類が違うと、発酵にかかる時間も微妙に変わってきます。米麹はわりと扱いやすく、失敗しても極端な味の崩れが起きにくいという傾向があります。
たとえば、大豆500gに米麹500g、塩200gという配合で仕込むとします。この場合、半年ほど寝かせると角の取れた甘みのある味噌になります。同じ大豆量で豆麹に置き換えると、もう少し力強い、うまみの濃い味に仕上がる傾向があります。同じ手順を踏んでも麹次第で仕上がりの表情がまったく違う。これが味噌作りのおもしろいところです。
ただし、地域の気候によって向き不向きがあります。寒冷地では発酵がゆっくり進むぶん、麦麹よりも米麹のほうが安定しやすいと言われます。逆に温暖な地域では豆麹でもしっかり発酵が進みます。どれが正解ということはなく、まず一度作ってみて、自分の舌に合うかどうかで次を決める。そのくらいの気持ちで選んで構いません。
塩分濃度はどこまで下げていいのか
結論から言うと、はじめての仕込みでは塩分を下げすぎないほうが安全です。塩は味の決め手であると同時に、雑菌の繁殖を抑える役目を持っています。ここを甘く見ると、熟成の途中でカビや異臭に悩まされることになります。
仕組みとしては単純です。塩分濃度が高いほど雑菌が増えにくく、発酵がゆっくり安定して進みます。逆に塩分を下げると麹の甘みが引き立ちやすくなりますが、そのぶん管理の手間が増えます。市販の味噌には減塩タイプもありますが、あれは温度管理や殺菌の工程がしっかりしている工場だからこそ成立している面があります。家庭で同じことをやろうとすると、思った以上に神経を使うことになります。
具体的には、大豆と麹の合計量に対して塩を12〜13%程度にするのが、家庭仕込みでは扱いやすい範囲だとされています。たとえば大豆と麹を合わせて2kg用意したなら、塩は240g前後です。この配合であれば、真夏を除けば常温の物置でも大きな失敗は起きにくいと言われます。逆に塩を8%まで落とすと、夏場はほぼ確実にカビと格闘することになります。
ここは迷うところですが、健康を気にして塩分を控えたい人ほど、最初の一回は標準的な濃度で仕込むことをすすめます。減塩は、仕込みの流れが体に入ってから調整すればいい話です。最初からハードルを上げると、味噌そのものが嫌いになりかねません。なお、塩分濃度を下げる場合は保存を冷蔵に切り替えるなど、常温放置を前提にしないことが欠かせません。
仕込む容器はどれを選ぶか
容器選びは、味噌樽・ホーロー容器・保存用のジップ袋の三択でだいたい足ります。どれか一つが優れているわけではなく、仕込む量と置き場所によって向き不向きが分かれます。
| 容器 | 向いている量 | 特徴 |
|---|---|---|
| 味噌樽(木製・陶器) | 3kg以上 | 通気性があり長期熟成向き。重く場所を取る |
| ホーロー容器 | 1〜3kg | におい移りが少なく管理しやすい。手ごろな価格帯が多い |
| ジップ付き保存袋 | 500g〜1kg | 空気を抜きやすく省スペース。少量の試作向き |
木樽は昔ながらの雰囲気があり、大量に仕込む人には向いていますが、置き場所を選びます。マンション住まいで台所の隅にしか置けないという場合は、まず現実的ではありません。ホーロー容器は蓋がしっかり閉まり、匂いも移りにくいので、家庭での定番になっています。ジップ袋は場所を取らず、冷蔵庫のすき間にも入るので、最初の一回を少量で試したい人に向いています。
たとえば一人暮らしで台所が狭く、まず失敗してもいいから試したいという場合は、大豆250g程度でジップ袋仕込みから始めるのが現実的です。逆に家族4人分を毎年仕込むつもりなら、最初からホーロー容器か木樽を用意したほうが、翌年からの手間が減ります。
例外として、金属製の容器はおすすめできません。塩分と発酵による酸で腐食が進みやすく、味噌に金気が移ることがあります。プラスチック容器も、においが強く残るものは避けたほうが無難です。容器選びに正解はありませんが、避けたほうがいい素材ははっきりしています。
熟成期間と置き場所の関係
味噌は仕込んで終わりではなく、そこから半年から一年かけて熟成させる工程が本番です。結論としては、短くて半年、長くて一年を目安にすると失敗が少なくなります。
熟成が進む仕組みは、麹の酵素がゆっくり大豆のたんぱく質やでんぷんを分解し、うまみ成分や香りに変えていくというものです。この分解は温度が高いほど早く進みますが、早すぎると角の立った味になりやすく、じっくり進めたほうがまろやかになる傾向があります。だからこそ、季節を選んで仕込む人が多いのです。寒仕込みと呼ばれる、冬場に仕込んで夏を越させる方法が一般的なのはこのためです。
たとえば1月に仕込んだ味噌は、夏の暑さで一気に発酵が進み、9月から10月ごろには食べられる状態になります。逆に真夏に仕込むと発酵が急激に進みすぎて、風味がとがった味噌になりやすいと言われています。置き場所は、直射日光の当たらない冷暗所が基本です。台所の床下収納や、玄関の靴箱の上など、温度変化が少ない場所を選ぶ人が多いようです。
迷いやすいのは「途中で味見をしていいのか」という点です。答えは、していいです。3か月、6か月と時期ごとに少しずつ味を見て、好みの熟れ具合で冷蔵庫に移してしまえば、それ以上の発酵をほぼ止められます。一年寝かせないといけないという決まりはありません。自分の好みで止めどきを決めていい。この自由度が、家庭で仕込む味噌のいちばんの利点だと思います。
最初はどのくらいの量から始めるべきか
結論としては、初回は大豆500g前後、できあがり量にして1.5kgほどが扱いやすい量です。多すぎず、少なすぎない。この中間の量が、はじめての仕込みには向いています。
理由は単純で、少なすぎると発酵中の温度変化や乾燥の影響を受けやすく、味が安定しにくいからです。逆に多すぎると、上下でカビの生え方にムラが出たり、天地返し(味噌をかき混ぜる作業)が重労働になったりします。1.5kg程度であれば、家庭用の鍋一つで大豆を茹でられますし、混ぜる作業も一人で十分にできます。
具体的な場面を挙げると、休日の午前中に大豆を茹で始め、午後に潰して麹と塩を混ぜ、容器に詰める。この一連の作業が、1.5kgの量であれば3〜4時間程度で終わります。子どもと一緒に大豆を潰す作業をやってみたという声もよく聞きますが、これも量が少ないからこそ気軽にできることです。10kg仕込むとなると、道具も広い作業スペースも必要になり、初心者が気軽に手を出せる規模ではなくなります。
ただし例外もあります。地域の味噌作り教室やイベントに参加する場合は、大人数で大量に仕込むこともあります。この場合は道具も人手も揃っているので、量の心配はいりません。あくまで自宅で一人、あるいは家族だけで始める場合の話として、最初は少なめの量から始めるのが無難だということです。慣れてきたら、翌年は倍の量に増やせばいい。味噌作りは一年に一度の作業なので、経験を積むには何年かかかります。焦らず、まずは扱いきれる量から手を動かしてみることです。

